相続と贈与③生前贈与
生前贈与
資産を個人から無償でもらうと受贈した方は贈与税が課税されます。
法人から資産を受け取った場合は所得税が課税されます。
相続税は没後に資産を受け継いだ者に課税され、贈与税は生前に資産を受け継いだ者に課税されます。
生前贈与をするべき方は、相続資産が相続税の非課税枠を超える方です。節税対策です。
その他にも、節税対策だけでなく、お金を使う現役世代に贈与することにより、教育など有意義なお金の使われ方が期待できます。
贈与税の非課税枠
年間110万円。贈与税は、受贈した方が払う税金ですので、受贈する側の非課税枠です。
時々、110万円ずつを複数名から受贈しても非課税枠内なのでと、非課税と勘違いしている方もいますので気をつけてください。
あくまで、受贈者に対する非課税枠であって、贈与者の非課税枠ではありません。
贈与税の計算
【一般贈与財産用】(一般税率)
この速算表は、「特例贈与財産用」に該当しない場合の贈与税の計算に使用します。
例えば、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合などに使用します。
基礎控除後の課税価格 税率 控除額 200万円以下 10% - 300万円以下 15% 10万円 400万円以下 20% 25万円 600万円以下 30% 65万円 1,000万円以下 40% 125万円 1,500万円以下 45% 175万円 3,000万円以下 50% 250万円 3,000万円超 55% 400万円 出展元:国税庁HP
【特例贈与財産用】(特例税率)
この速算表は、直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)※への贈与税の計算に使用します。
※ 「その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)」とは、贈与を受けた年の1月1日現在で20歳以上の直系卑属のことをいいます。
例えば、祖父から孫への贈与、父から子への贈与などに使用します。(夫の父からの贈与等には使用できません)
基礎控除後の課税価格 税率 控除額 200万円以下 10% - 400万円以下 15% 10万円 600万円以下 20% 30万円 1,000万円以下 30% 90万円 1,500万円以下 40% 190万円 3,000万円以下 45% 265万円 4,500万円以下 50% 415万円 4,500万円超 55% 640万円 出展元:国税庁HP
相続税の計算
法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額 1,000万円以下 10% - 3,000万円以下 15% 50万円 5,000万円以下 20% 200万円 1億円以下 30% 700万円 2億円以下 40% 1,700万円 3億円以下 45% 2,700万円 6億円以下 50% 4,200万円 6億円超 55% 7,200万円 出展元:国税庁HP
こちらも参照いただければと思います。
実効税率で比較
シンプルなモデルで検証します。
【例】
資産
金融資産5,000万円
不動産(相続税評価額)8,000万円
有価証券2,000万円
資産総額15,000万円
純資産
15,000万円
法定相続人
配偶者 子1名
(法定相続人ではないが、孫2名いる)
配偶者の資産
金融資産3,000万円
現時点での遺産総額
純資産15,000万円が現時点での遺産総額になります。
3,000万円+600万円×2名=4,200万円
課税遺産額
15,000万円ー4,200万円=10,800万円
法定相続分通りに相続すると、配偶者、子は各々5,400万円の課税遺産額になります。
相続税額
【法定相続分通りに相続】
配偶者:相続税無
配偶者が全てを相続すれば、配偶者の税額軽減がありますので相続税はゼロです。
子
5,400万円×30%-700万円=920万円
15,000万円の資産に対して920万円の相続税ですので、実行税率は6.1%です。
【配偶者に厚く相続】
二次相続時に相続税が多くなりますが、配偶者の税額軽減を利用する方法もあります。
一次相続時に、15,000万円の相続資産を全て配偶者が相続すると相続税はゼロです。
二次相続含めた比較
法定相続分通りに相続した場合、配偶者の遺産総額は7,500万円(相続分)と3,000万円(元々の財産)を合わせた10,500万円です。
10,500万円を子1名が相続すると、
課税遺産額は10,500万円ー3,600万円(相続税基礎控除)=6,900万円
6,900万円に対する相続税は1,370万円です。一次相続時の相続税920万円と合わせると、
2,290万円です。
両親の資産総額18,000万円に対する相続税2,290万円ですので、一次相続・二次相続合算した相続税実効税率は12.7%になります。
配偶者が一次相続で全て相続した場合、配偶者の遺産総額は15,000万円(相続分)と3,000万円(元々の財産)を合わせた18,000万円です。
18,000万円を子1名が相続すると、
課税遺産額は18,000万円ー3,600万円(相続税基礎控除)=14,400万円
14,400万円に対する相続税は4,060万円です。一次相続時は相続税ゼロでしたので、相続税総額は4,060万円になります。
両親の資産総額18,000万円に対する相続税4,060万円ですので、一次相続・二次相続合算した相続税実効税率は22.5%になります。
何を言いたいかというと、相続は二次相続を含めて対策・検証しないといけないということです。
上記の例で分かる通り、相続資産の分け方次第で、相続税総額は変わります。
生前贈与をしていた場合
孫2名にそれぞれ贈与税非課税枠である年110万円を10年間贈与したとすると、遺産総額は15,000万円ー2,200万円=12,800万円になります。贈与税の非課税枠内ですので贈与税はゼロです。
配偶者・子が法定相続分通りに相続した場合、一次相続では、
課税資産12,800万円-4,200万円(相続税基礎控除)=8,600万円
子の法定相続分4,300万円×20%-200万円=660万円
2,200万円を生前贈与し、課税資産を減らしたことにより、相続税が920万円→660万円に減らすことができました。2,200万円の生前贈与で260万円の節税です。
2,200万円を定期預金で預けていても、ほぼ増えない今日の金利情勢を考えば、無リスクで260万円のリターンがあるとも考えることができるのではないでしょうか。
生前贈与注意点
生前贈与は贈与者、受贈者双方が贈与の事実を認識していなくてはいけません。黙って贈与をしたとしても贈与とは認められず、資産を移転したことにはなりません。
よくあるケースとして、祖父母が孫の通帳に振り込みをして、それを子に伝えるというケースです。
孫が未成年なら、両親が親権者になり、両親に伝えればいいのですが、口頭だと贈与した証拠がありません。
贈与をした証拠を残しておくべきなので、贈与契約書を作成しておくべきです。贈与契約書は税務署に提出する必要はありません。
贈与者・受贈者双方が毎年贈与契約を交わし、贈与契約書1通ずつ保管しておく必要があります。
以前は子や孫の銀行口座を祖父母やおやが勝手に作る事ができました。
その口座に、資金を移転している方もいましたが、これでは贈与にならないので、相続が発生した時に贈与とみなされず、相続財産になってしまいます。
贈与は、わたす側(贈与者)、もらう側(受贈者)双方が贈与の事実を認識しておく必要があります。
年間110万円の贈与税非課税枠を超えた贈与については、受贈者が贈与税申告をしなくてはいけません。
120万円の贈与があれば、1万円の贈与税を納税しなくてはいけません。納税は国民の義務ですので、失念することがないようにしてください。
誰に贈与するか
相続をしない人に贈与することが節税対策の観点からは有効です。法定相続人以外で遺産を相続しない人です。
分かりやすい受贈者は、孫です。孫は養子縁組していなければ法定相続人になりません。その他にも子の配偶者などです。
なぜ、法定相続人以外への贈与が節税対策に有効なのか。
生前贈与加算なるものがあり、相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始前3年以内に、被相続人からぞうよによって財産を取得していた場合には、その贈与財産の価額を相続財産に加算することになっています。
これを読み解くと、相続又は遺贈により財産を取得していなければ生前贈与加算の適用はないということです。
孫の教育費に使ってもらいたいという祖父母は多いと思います。
教育預金という1,500万円まで教育に関する資金の贈与非課税制度がありますが、おすすめしません。
出金するのに時間と労力が異常にかかるからです。
税制は毎年変更されていますので、節税対策などについては専門家のアドバイスを求めることをお勧めします。
一般的な情報提供のみを目的としたものであり、税務・投資アドバイス等ではありません。
Arbei