なぜタワーマンションだけが異常な値上がりをしたのか
都市部への人口集中
日本の人口は減少に転じています。しかし、都心部への人口集中は続いています。
こちらのグラフをご覧ください。
出典:総務省
三大都市圏に人口が集中し、特に東京圏に人口が集中していることが分かります。地方都市から人口が流出し、地方都市は空洞化が進んでいます。
地方都市の中核部にはタワーマンションを見かけますが、東京などとは比べものになりません。
都心部に人が集まっていますが、土地に限りがあります。土地に限りがあるので、上に伸ばしたのがタワーマンションです。
狭い土地に高い建物、これがタワーマンションです。
リーマンショック前後からの価格推移が下のグラフです。マンションが飛びぬけて価格が上昇していることが分かります。
出典:国土交通省
金利
低金利が限界与信額を押し上げています。
2020年5月現在の変動金利は優遇幅が最大だと0.4%台で借りれます。
10年前の変動金利の最優遇は0.875%でした。
5,000万円を35年、変動金利、元利均等返済の場合
金利0.4%の場合、月々の返済額は127,95円です。
金利0.875%の場合、月々の返済額は138,248円です。
金利0.4%で、月々の返済額138,248円までなら5,400万円借りることができます。
銀行の審査基準も緩くなっています。金利競争にネット銀行が加わってから、更に対顧金利は低くなりました。
与信審査でも、金利上昇した場合を想定した金利ストレスが下がっているように思います。
10年前の審査なら与信額3,000万円までだった先が4,000万円まで借りれるといった具合です。
団体信用生命保険のコストが0.2%/年程度ですので、銀行にとってほとんど利鞘(儲け)はありません。
でも、なぜ銀行は低金利の住宅ローンを止まないのか?特にネット銀行、信託銀行、一部の地方銀行は一生懸命です。
住宅ローンは安全な債権であり、利鞘が薄いにしろ、儲けがゼロではないからです。
BIS規制というものがあります。
銀行の財務上の健全性を確保することを目的として、1988年7月にBIS(Bank for International Settlements=国際決済銀行)の常設事務局であるバーゼル銀行監督委員会で合意された、銀行の自己資本比率規制のこと。「バーゼル規制」「バーゼル合意」ともいう。銀行として備えておくべき損失額をあらかじめ見積もり、それを上回る自己資本を持つことを要求している。
具体的には、銀行の自己資本を分子、リスクの大きさを分母とする比率(自己資本比率)が国際的に活動する銀行には8%以上であることを求めており(海外拠点を持たない銀行は4%)、日本では1993年3月末から適用された(バーゼル1)。
その後、銀行の抱えるリスクの大きさ(自己資本比率の分母)をより精緻なものとするべく、1998年からバーゼル1の抜本的な見直しが開始され、2004年6月に新BIS規制(バーゼル2)が公表された。なお新BIS規制では自己資本比率の分子と達成するべき水準についてはBIS規制と変更がない。日本では、2007年3月末から適用。
また、リーマン・ショックに端を発する世界的な金融危機を背景に、2010年9月には規制内容を再検討した「バーゼル3」が公表された。「バーゼル3」では、自己資本の「量」と「質」の見直しを柱とし、「量」では自己資本比率の水準(8%以上)の引き上げを、「質」では普通株や内部留保など、より資本性の高いものを多く保有するよう示唆。
具体的には、自己資本を「狭義の中核的自己資本(コアTier1)」、「中核的自己資本(Tier1)」、「総資本」の3段階に区分し、それぞれの比率を2013年から段階的に引き上げ、最終的に4.5%、6%、8%の最低基準を満たすと同時に、2016年以降は金融危機時における損失の吸収に使用できる資本保全バッファーの導入(最終的に3つの資本に対して2.5%上乗せ)を盛り込んだ(2019年に完全施行)。
出典:野村證券
安全な債権であるため、住宅ローンはリスク資産として見られる比率が35%です。
法人向け融資は100~150%です。住宅ローンの場合、貸出枠1憶円に対して、3億円以上融資できるのです。自己資本規制上で住宅ローンは有利なのです。
しかし、コロナ危機で状況は変わるかもしれません。返済が滞る債務者が住宅ローンでも増える可能性が高いからです。
金利が少なくとも3%になったとしても返済できるレベルまでしか借りるべきではありません。
パワーカップル
パワーカップルが増えました。パワーカップルとは様々な定義がありますが、夫婦ともに年収700万円以上、夫婦の合計年収1,000万円以上など、世帯年収が多い夫婦です。
女性の社会進出が進んでいます。こちらをご覧下さい。
女性が結婚・出産などを機に退職することが減っていることが分かります。諸外国に比べ、まだ遅れていますが、社会が女性を受け入れる体制を整えてきています。
女性の社会進出が進んでおり、勤続年数も長くなっていることから女性管理職も増えてきています。
一方で企業も女性が活躍していることを世間にアピールするために、女性管理役職者を無理矢理作ってる側面もあります。
管理職になれば、手当も増えますので家計の収入は増えます。
生産労働人口を増やすために女性の社会進出を促した結果、パワーカップルがパワーアップしました。
業者の寡占化
リーマンショック時には、多くの中小マンションデベロッパーは倒産しました。
モリモト、穴吹工務店、ジョイント・コーポレーションなど多くの中小デベロッパーが倒産しました。
リーマンショックによりマンションデベロッパーは大手数社の寡占状態になったのです。
供給量を抑え、価格が下がらないようにしています。株も不動産も生活用品も需給で価格は決まります。
出典:国土交通省
デベロッパーが減ったため、価格競争が弱まっています。需要はそれなりにありますので、価格を高く設定しても、売り捌ける状態が続いています。
投資目的
外国人投資家、富裕層が投資目的、相続対策目的でタワーマンションを買い漁りました。
世界的な金融緩和によるカネあまりが、不動産や証券市場に向かいました。
新築タワーマンションで売り切れだったはずなのに、お隣さんが住んでないのは投資目的(転売)だったり、相続対策目的で、居住が目的ではないからです。
賃貸目的で投資する投資家もいます。
金利が付かない時代ですので、家賃収入は魅力的です。
タワーマンションを賃貸で借りる人の属性は、収入が高い層です。東京などは土地を仕入れることが難しくなっていますので、賃貸用にタワーマンションへ投資資金が流れました。
タワーマンションの価格推移をみれば、投資家が動いている、動かないはずがない推移です。
リーマンショック後から、ほぼ右肩上がりに推移しています。
自動車などは、中古車が新車の価格を超えることは稀です。フェラーリやランボルギーニなど超高級車ではあり得る話ですが、大衆車は中古になれば、新車よりも安くなります。
不動産の場合も、建物自体は劣化が進み、償却されていきますが、土地の価格は景気であったり、近隣開発などに左右されます。
憧れ、幻想
都市部に住む=タワーマンションと漠然と抱いている人が多いのではないでしょうか。
本当の金持ちは、タワーマンションではなく、立地条件の良い地べたを買っています。
ドラマやヒルズ族の生活をネットやテレビで見て影響されている面もあります。
夜景がきれい、共有スペースが充実しているなどタワーマンションへの憧れ、幻想も購買意欲をかき立てています。
とある場所でタワーマンションの目の前にタワーマンションが建設されるという現場がありました。
既に建っていたタワーマンションAからは、目の前にタワーマンションBが建設されると、景観も何も台無しです。もちろん、資産価値も下がります。
実際にタワーマンションAは、タワーマンションBの建設決定以降、値崩れしました。反対運動はありましたが、法律を犯しているわけではないので、粛々と工事が進む光景は何とも言えないものでした。
仕入れ価格、資材、人件費の高騰
東京オリンピック開催、東日本大震災復興に向けたインフラ整備で人手不足がありました。
インフラ整備と公共事業に人を割かれ、資材価格も需要が旺盛なために値上がりました。
コストを価格に転嫁するのは経済の世界では当たり前です。つまり、建設コストが高くなったために価格が高くなったのです。
リーマンの時と違って値崩れしないという関係者もいます。
確かに供給量を調整していますので、需給バランスは崩れづらいかもしれません。
しかし、需要は減退するでしょう。コロナウィルスによる先が見えない経済、テレワークなどの活用によってオフィス(都心部)に通勤する必要が減るなどの影響は避けられないと思います。
一般的な情報提供であり、投資家・サイト閲覧者への投資アドバイス・税務アドバイスなどではありません。
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