お金のおはなし~お金の強化書~

お金と生活についての強化書

相続と贈与④富裕層向け節税

遺産相続のイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや

 

 

 実例

以前、以下のようなお客様を担当しました。

属性:中小企業会長

年齢:70代後半

 

資産 

金融資産8億円 

不動産評価額(相続税評価額5億円)

保険2,000万円(500万円ずつ各法定相続人へ)

未上場株(自社株)2億円

負債ゼロ

 

年収2500万円(役員手当、不動産収入、年金)

 

法定相続人

配偶者と子供3名

 

資産を増やすのではなく、資産を守る、次の世代に円滑に継承する必要がある方です。

 

法人オーナー(創業者一族)なので、顧問税理士に相続対策の相談はしているとのことでした。

 

では、相続対策で何をしていたのでしょうか。

 

後継者である子への自社株の贈与と孫3名へ毎年120万円の贈与でした。

 

120万円の贈与にしている理由は、贈与税1万円を納税させ、納税意識と贈与の証拠を残すためとのことでした。

 

自社株も経営状態が良く、株価の評価額がけっこうなものになっていました。毎年300万円相当の自社株を後継者に贈与していましたが、とても間に合いません。

 

自社株の評価の下げ方については別途お話しさせていただきます。

 

果たして、十分な節税対策になっているでしょうか。

 

現状把握

何事についても共通して言えるのは、対策をするためには現状把握が必須です。

 

現状の資産総額は152,000万円です。

 

課税資産:152,000万円-5,400万円(基礎控除)=146,600万円

 

法定相続分通りの相続をした場合の相続税は、

 

配偶者:配偶者の税額軽減によりゼロ

 

子一人当たり:(24,400万円-500万円)×45%-2,700万円=8,055万円

 

相続税総額:8,055×3名=24,155万円 

 

実効税率:24,155万円÷146,600万円=16.4%

 

配偶者の税額軽減有無によって、相続税総額は大きく変わってきます。

 

一次相続とあわせて、二次相続対策を念頭にしなくてはいけません。

 

 

不十分な節税対策だったので、資産税に強い税理士を紹介し、以下のような提案をしました。

 

配偶者への居住用不動産贈与

婚姻期間が20年以上である配偶者から贈与により取得した日本国内の居住用不動産又は居住用不動産の取得費については、最高2,000万円まで110万円の基礎控除とは別に控除されます。贈与税配偶者控除といいます。

 

適用要件はありますが、婚姻期間20年以上で居住用不動産であれば、適用可能な案件がほとんどです。

 

自宅の贈与、自宅の持ち分の贈与とイメージしてもらえればと思います。贈与税の申告は必要です。

 

贈与税配偶者控除は、相続開始の年の贈与でも適用されます。また、その贈与の3年以内に贈与者に相続が発生しても、生前贈与加算の対象にもなりません。

 

配偶者の資産もそれなりにありましたが、資産を分散させた方が節税効果が大きかったため、提案に至りました。

 

金融資産を減らす

生前贈与の贈与額アップ

孫への贈与額を120万円より増やすことを提案しました。

 

多額の贈与を嫌う方も多いです。受贈者が何に使うか分からない、お金の大切さが分らなくなってしまう、金銭感覚が麻痺するなどを不安してです。

 

確かに、不安になる理由もわかります。節税が目的だったのに、親族の生活が荒れては元も子もありません。

贈与した資金を不自由な資金にすることにより、その心配は多少は緩和できます。

例えば、個人年金保険終身保険、つみたてNISA、投信積立、株式積立など将来のために、贈与したお金に制限をつけることもできます。

 

贈与税相続税の実効税率を比較してもらいました。

 

孫へ310万円贈与した場合の贈与税は、20万円です。

実効税率は20万円÷310万円=6.5%

(310万円ー110万円)×10%=20万円

 

同じように500万円贈与した場合の贈与税は、48.5万円です。

実効税率は48.5万円÷500万円=9.7%

(500万円ー110万円)×15%-10万円=48.5万円

 

1,000万円贈与した場合の贈与税は、177万円です。

実効税率は177万円÷1,000万円=17.7%

(1,000万円ー110万円)×30%-90万円=177万円

 

現状の相続税実効税率は16.4%ですので、16.4%よりも低い実効税率の贈与なら節税効果が期待できるということです。

 

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現金で不動産購入

現金は評価がそのままなので、現金を不動産に変える提案をしました。

 

よく、借入をして不動産購入すると相続税対策になるという銀行員がいますが、間違いです。

 

正しくは、遊休地に建物を建てれば、相続税対策になるです。遊休地の評価が、貸家建付地になるからです。この場合も借入による建設も、現金による建設も同じ効果です。

 

相続税納税のために現金を手元に残しておくために、借入をするというのは納税者準備には有効です。

 

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現金で不動産を購入しても、借入で不動産を購入しても、純資産は変わりません。

 

普通に土地、ランドセット、タワーマンション1室などを現金で購入するのと、借り入れして購入するのとでは、相続税対策上では変わりません。

 

現金を不動産に変えると何が起きるのか。

 

時価10,000万円の不動産は、おおよそ相続税評価額では8,000万円になります。

賃貸に回せば、貸家建付地評価になりますので、おおよそ6,400万円になります。

 

現金であれば10,000万円の課税資産ですが、不動産に換えると6,400万円の課税資産に評価を大きく下げることができます。

 

おおよその目安ですが、相続税評価額=時価×80% 固定資産税評価額=時価×70%です。

 

不動産業者に言わせれば、まったく違うと言いますが、目安として押さえておいた方が、高い買い物をしなくて済みます。

 

役員手当引下げ

不動産収入、公的年金もあり、役員手当無しでも十分暮らしていけるキャッシュフローでした。

会長と言っても名ばかりで、社長に業務はすべて引き継いでいました。

 

会長に居座る理由はお金ではなく、居場所を作りたいからだと感じました。社会との繋がりの場を失いたくないのだと感じました。

 

これを否定することはできません。居場所を奪うなど親子でもできないことです。

 

しかし、役員手当を受け取り続ければ、高い所得税を払い、更に相続財産も増え、将来の相続税も増えることになります。

 

会長職にある以上、無給とはいきません。役員手当についても、減額し、従業員の福利厚生、会社の成長に使った方が良いのではと提言しました。

 

結果

自宅持ち分2,110万円分を贈与税配偶者控除にて贈与

孫3名への贈与金額120万円→310万円

自社株を贈与していない後継者以外の子2名にも310万円贈与

後継者である子には、毎年500万円相当の自社株を贈与

不動産を現金にて2憶円購入

役員手当1,000万円→300万円 

年収2,500万円→2,800万円(物件購入による見込不動産収入1,000万円含む)

 

購入不動産の建物部分を新設の資産管理会社にしよう、不動産の購入はリスクが高いし管理が面倒、孫に多額の贈与は不安など相談の中で様々な意見が出てきました。

 

固定資産税の負担が大きくなり、所得税負担も大きくなるなどのデメリットも発生しました。

完璧な節税対策は無いのだと改めて思いました。

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贈与税総額1,485万円

孫3名・子2名 20万円/年×5名×10年=1,000万円

後継者である子 48.5万円/年×10年=485万円

 

10年後の相続税試算(法定相続分通りの相続。生前贈与加算考慮せず)

 

配偶者:ゼロ(配偶者の税額軽減)

子一人当たり:(21,500万円ー500万円)×45%-2,700万円=6,750万円

6,750万円×3名=20,250万円

 

相続税贈与税を合わせると1,485万円+20,250万円=21,735万円

 

現状が24,155万円の相続税、収入による資産増を考慮(10年で6,000万円)した上でも、2,420万円の節税効果がありました。資産増6,000万円がないものと考えると、3,770万円の節税効果です。

 

全て机上のもので、税制改正や不動産価格の評価、自社株の評価など変動要因は多分にありますが、相続税贈与税の実効税率を比べることにより、節税への道が切り開かれます。同時に、所得税・固都税なども総合的に検証しなくてはなりません。

 

生前贈与は期間を長く、受贈者を多くすることで節税効果は高くなります。生前贈与に早すぎるはありませんし、途中で止めることもできます。

 

節税対策は、これだけではありませんが、筆者の経験をお伝えさせていただきました。

 

税理士も得意分野、不得意分野があります。贈与税相続税といった資産税の取り扱いが年間1件もない税理士もいます。

 

資産税は、税率も高いです。不得意な税理士に依頼すると、高い税金を納めることになってしまうかもしれません。

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